生体エネルギー学の臨床(2)PUFAの問題点

PUFA(多価不飽和脂肪酸)はエストロゲンアゴニスト(作動性)でアンドロゲン/プロゲステロンのアンタゴニスト(拮抗性)である。不飽和度が強いほどその効果が強く、ω3脂肪酸EPA/DHA)は最もアンドロゲンを抑制する。PUFAとMUFA(一価不飽和脂肪酸)は5-ARを阻害するが、SFA飽和脂肪酸)は阻害せずアンドロゲン促進性である。注)5-AR(5α還元酵素阻害薬):テストステロンをジヒドロテストステロン(DHT)に変換する酵素
PUFAはタンパク質合成を抑制し脂肪分解を促進するが(カタボリック)、SFAはタンパク質合成を促進し脂肪分解を抑制する(アナボリック)。PUFAは親水性であるが、SFAは親油性で細胞膜を安定させる。
 PUFAはコルチゾール合成を促進し、免疫能を低下させ、がん発症リスクを増加する。SFAはPUFAに拮抗し、コルチゾール合成を抑制する。ビタミンE、A、DはPUFA効果を抑制し免疫能を上げる。ビタミンEはPUFAを飽和化する。また、PUFAの過酸化脂質であるマロンジアルデヒドMDA)や4ヒドロキシノネナール(4HNE)は発がん性がある。
PUFAはPDHを抑制し、糖酸化を減らし、脂肪酸酸化を増やす。SFA(特にパルミチン酸)はPDHを促進し、糖酸化を増やし、脂肪酸酸化を抑制する。注)PDH(ピルビン酸脱水素酵素):ミトコンドリア内にあり、ピルビン酸をアセチル-CoAに変換する酵素
PUFAは酸化的リン酸化能を低下させ、ミトコンドリア生合成を減らす。カルジオリピンの構成成分にPUFAが増えると酸化的リン酸化が低下する。PUFAは代謝を低下させ、体温を低下し、冬眠を可能にするが、寿命を短くする。SFAはアンカップラー(脱共益剤)であるが、PUFAはアンカップリングを抑制して肥満を促進する。注)カルジオリピン:ミトコンドリア内膜にあり、酸化的リン酸化を主に調節する固有リン脂質。注)アンカップリング:ミトコンドリアでATP産生することなく熱を発生。
SFAもPUFAもランドルサイクルにより一時的なインスリン抵抗性を生じるが、SFAにはPUFAに見られる負の効果(チトクロームCオキシダーゼ阻害、ミトコンドリア生合成阻害、ステロイド合成阻害、免疫能低下)を認めない。
PUFAがなければ炎症は生じない。アラキドン酸は炎症反応の90%に関連する。PUFAによるロイコトリエンの増加は炎症を増大し、がんと老化を促進する。また、PUFAはCVDリスクを増やすが、SFAは低下させる。EPA/DHAでCVDは減らない。SFAコレステロールはPUFAに由来する炎症性メディエーターの産生をブロックする。
PUFAは腸管バリアを損傷してエンドトキシンの血液への流入を増やすが、SFAは腸管バリア損傷を保護する。
PUFAはインスリン抵抗性の原因である。(詳細は過去記事「インスリン抵抗性のメカニズム」参照)また、PUFAは直接インスリンシグナルを抑制する。
PUFAは総カロリーの0.5%で十分である。
PUFAの拮抗剤:SFA、ビタミンE、A、D、K2、COX(シクロオキシゲナーゼ)/LOXインヒビター、アスピリンプロゲステロン、アンドロゲン、T3/T4、Mg、フラボン/フラバノン、オレンジジュース、グリシン/ゼラチンなど。
LOX(リポキシゲナーゼ)インヒビター:ビタミンE、ミノマイシン、ケトチフェン、シプロヘプタジンなど。(つづく)
注)参考文献を確認したい方は、Ray Peat Forum(https://raypeatforum.com/community/)でキーワード検索してください。(例えば、Haidut, PUFA, Diabetes)HaidutはGeorgi Dinkovのペンネームです。