当院で糖尿病治療を希望される患者様へ

糖尿病はインスリンが十分に働かないことにより慢性的に血糖が高くなる病気です。糖質制限は、3大栄養素のうち唯一血糖を上げる炭水化物(糖質)を制限することで、薬なしでも血糖コントロールが可能とする食事療法です。確かに炭水化物を摂取しなければ血糖は下がりますが、果たして糖尿病は治ったと言えるのでしょうか?

風邪をひいて解熱剤を飲むと熱は下がりますが、ウイルス感染症が治ったわけではありません。同様に、糖尿病になり糖質制限で血糖が下がっても、インスリン抵抗性が改善するわけではありません。血糖は熱と同様に徴候であって原因ではないからです。これは、介入試験において、糖尿病専門医による厳格な血糖コントロールにより却って死亡率が増加した理由と思われます。糖尿病を治療するには、インスリン抵抗性を改善すること、正確には代謝の柔軟性(ミトコンドリア代謝機能)を回復する必要があるのです。

インスリン抵抗性の主な原因は血中遊離脂肪酸(FFA)の増加によるものであり、特に多価不飽和脂肪酸(PUFA)が原因となります。PUFAの主体となる植物オイル(シードオイル)を回避し、安全な飽和脂肪酸SFA:バター、ココナッツオイルなど)、一価不飽和脂肪酸(MUFA:オリーブオイルなど)を利用することがとても重要となります。しかし、脂肪組織に貯蔵された脂肪の大半がPUFAであるため、脂肪分解(リポライシス)によるFFAの上昇を抑制することが喫緊の課題となります。

糖質制限により血糖の上昇を防いでも、血糖降下薬により細胞内に無理やり糖を押し込んで血糖を下げても、ミトコンドリアにおけるブドウ糖の酸化利用が改善しない限り、糖尿病が治ったことにはなりません。それを制限しているのは、ミトコンドリアのランドル回路(糖-脂肪酸回路)であり、ミトコンドリアにおける脂肪酸酸化の増加が直接の原因です。アスピリン、ナイアシナミド、ビタミンEはリポライシスと脂肪酸酸化を抑制し、また、ビタミンB1、B2、B6、ビオチン、ナイアシナミドはブドウ糖酸化を促進します。

代謝の柔軟性は基礎代謝量と密接に関連します。糖質制限食や絶食は基本的に基礎代謝量を減らしますし、また、負荷の強い有酸素運動による強制的代謝基礎代謝量を減らします。これらはストレスとなり、結果的に副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の分泌を増やし、主に筋肉組織の分解による糖新生を促進し、拮抗的にインスリンの分泌も増加する悪循環を生み出します。つまり、カロリー制限と運動を奨励する糖尿病専門医の指導は、短期的に血糖や体重が低下することがあっても、長期的にはインスリン抵抗性を悪化させることになり、中止時のリバウンドを引き起こします。体重とインスリン抵抗性は必ずしも相関しません。基礎代謝量はミトコンドリアの豊富な筋肉量に依存するので、年齢に関わらず、筋力トレーニングはとても重要です。

また、腸内細菌の増加はエンドトキシンを増加し、腸管セロトニンの分泌を促進します。どちらも代謝を低下させるだけでなく、炎症を引きおこし、インスリン抵抗性を高めることが分かっており、腸内細菌を可能な限り少なく保つことが重要となります。これは糖質制限や絶食で一時的に体調が改善する主な理由です。腸内細菌のえさとなる食物繊維やレジスタントスターチの過剰摂取や、プロバイオティクスへの妄信には十分に注意する必要があります。

脳は1日に約130gのブドウ糖を必要とするので、糖尿病患者でも最低100-150gの炭水化物は必要です。3大栄養素のエネルギー比率の理想は、炭水化物60-65%、タンパク質15-20%、脂肪15-20%くらいの高炭水化物低脂肪食です。FFA制限の下、主に空腹時血糖を指標に、炭水化物を少しずつ慎重に増やして行きましょう。糖尿病が食事による病気である以上、医者任せ、薬任せで糖尿病を克服することはできません。糖質カウントの知識を身に着け、食事内容を試行錯誤する自主性が最も重要です。

最後に、サプリメントによるビタミン、ミネラル、アミノ酸などの摂取は、体に足りない栄養成分の補充であり、薬物治療とは全く異なり、糖尿病治療においてとても重要と考えています。薬なしで糖尿病を治療したい方はサプリメントも拒否する傾向が強いですが、食事や生活療法のみで糖尿病を克服できる人は極めて少数です。サプリメントを最初から否定する方は、当院での治療に向かないことを予め申し上げます。