2023年、年末のご挨拶

今年の正月に、たまたま目にしたMercola医師とGeorgi Dinkov氏との対談記事を読んで、代謝の基礎知識を根底から覆されてしまいました。マジか?と、心臓がバクバクして、汗が止まらなくなり、姿をくらましたい気持ちになったことを、昨日の事の様に覚えています。記事の内容は、肥満・糖尿病の主な原因は遊離脂肪酸、特に多価不飽和脂肪酸(PUFA)であり、糖質制限食、絶食、運動療法は却ってストレスとなり、代謝を悪化させる可能性があるとするものでした。

これまでとは真逆な概念である「生体エネルギー学」の真偽を検証するために、Ray Peat フォーラムにおけるGeorgi Dinkov氏の全ての記事に目を通したのですが、学ぶ度に気づきを得る展開となり、最後は、その卓越した論理性にすっかり魅了されていたのでした。簡単に言うと、「基礎代謝量を増やすものは正しく、減らすものは誤りである」とする考えです。結果として、4月には、9年間臨床応用してきた糖質制限食による糖尿病治療を改めることをホームページで宣言し、10月には、生体エネルギー学の臨床応用編を閲覧可能にしました。

振り返ると激動の1年でしたが、とても充実した1年となりました。来る日も来る日も、会社に籠って、ひたすら勉強し続けたわけですが、その原動力はひとえに科学的探究心でした。「過ちては則ち改むるに憚ること勿れ」この方針転換を可能にしたのは、いつでも最先端の情報収集ができるインターネットのおかげ様です。

久しぶりに食べる白米はとても美味しくて、あっという間に6kgも肥ってしまいましたが、血液データは全て改善しておりました。一番の変化は睡眠の質が劇的に改善したことでした。イライラや頭痛も減り、集中力が増し、疲れにくくなりました。

Peatyな食事で初期に肥るのは、長年に渡る糖質制限によるインスリン抵抗性のためです。インスリン抵抗性、正確には、代謝の柔軟性を改善するためには、脂肪組織からの脂肪分解を減らし、ミトコンドリアにおける脂肪酸酸化を減らして、ブドウ糖酸化を増やす必要があります。脂肪分解を減らすためには、PUFAの摂取を止めるだけでは十分ではなく、アスピリン、ナイアシナミド、ビタミンEの補充が必要となるかもしれません。また、ブドウ糖酸化を増やして乳酸生成を減らすためにも、ビタミンB1、B2、B6、ナイアシナミド、ビオチン(B7)の補充が必要となるかもしれません。

興味深いことに、脂肪酸酸化の増加、ブドウ糖酸化の減少、乳酸生成の増加は、肥満・糖尿病だけでなく、心血管疾患、自己免疫疾患、神経変性疾患、がんおよび老化に共通する代謝異常であることです。生体エネルギー学が、肥満・糖尿病のみならず、多くの慢性疾患の予防と治療に応用される時代が、近い将来必ず訪れると確信しております。

今年も受診して頂いた皆様、誠にありがとうございました。来年もご愛顧の程よろしくお願いいたします。

2023年12月 むらもと循環器内科 院長 村元信之介