生体エネルギー学の臨床(15) 肥満・糖尿病の食事療法

デンマークの観察研究でBMI(Body Mass Index)27の過体重で最も総死亡率が低く、BMI30以上の肥満の総死亡率もBMI18.5-25の正常枠と変わらなかった(肥満パラドックス)。また、2型糖尿病治療で血糖降下剤(インスリンも含む)による血糖正常化の安全性を確認する介入試験では、グリコヘモグロビンA1cの平均が7.5で総死亡率が最も低くなるU字型相関を示した。慢性的炎症が糖尿病の多くの合併症(心血管疾患や腎臓病など)の根本的な原因である。これまで高血糖がその原因と考えられてきたが、脂肪酸代謝物とミトコンドリア機能障害が原因であることが解明された。厳格な血糖コントロールをしても、2型糖尿病患者の総死亡率を改善できないのは、脂肪酸代謝物が炎症を起こし代謝障害を引き起こすからである。

肥満・糖尿病患者に対する3大栄養素の推奨比率は、炭水化物(C)60-65%、タンパク質(P)20%、脂肪(F)15-20%くらいの高炭水化物低脂肪食である。ちなみに、世界で最も心血管疾患(CVD)の少ないボリビアのチマネ人はC72%、P14%、F14%の高炭水化物食であり、CVDの多い米国人はC52%、P14%、F34%で脂肪の割合が大きい。

炭水化物でも、小腸で残らず消化吸収されるブドウ糖、果糖、砂糖などの単糖や二糖類(糖類)の摂取が望ましい。でんぷんなどの多糖類は小腸で消化吸収ができないレジスタントスターチを含み、水溶性繊維とともに腸内細菌のえさとなり、腸内細菌を増殖させるからである。また、糖類は同じ量のでんぷんよりも基礎代謝量を増加させる。

植物でも、完熟果物は問題が少ないが、穀物、野菜、豆類、ナッツには反栄養素と言われる有害化学物質(フィチン酸塩、シュウ酸塩、レクチン、グルテンなど)が含まれ、食物に含まれる必須栄養素やミネラルの吸収を妨げ、腸管バリア損傷(リーキーガット)の原因となる。植物を摂取する際、生は避け、良く調理して摂取するのが良い。

腸管バリアの保護には、飽和脂肪酸、ナイアシナミド、グリシン/ゼラチン、ビタミンA/D/E/K/B2などが有効である。また、腸内細菌の増殖を予防治療するためには、不溶性食物繊維(ニンジンサラダなど)や活性炭、抗菌薬などが有効である。また、TLR4アンタゴニストとしてナルトレキソン、シプロヘプタジン、プロゲステロンなどが有効である。

タンパク質は必須アミノ酸が豊富な動物性タンパク質の摂取が望ましく、摂取量の目安は0.7-1g/kg体重である。過剰に摂取したタンパク質は、コルチゾールの分泌を促進し、アミノ酸に分解され、肝臓で糖新生に利用されるが、アンモニアの産生量を増加させる。アンモニアは肝臓で尿素に変換され腎臓で排泄されるが、肝腎機能が低下した際には、タンパク質の摂り過ぎに十分注意が必要である。

脂肪は多価不飽和脂肪酸(PUFA)であるサラダオイルを極力避け、飽和脂肪酸SFA)であるココナッツオイル、バターの利用が望ましい。一価不飽和脂肪酸であるオリーブオイルも問題は少ない。反芻動物である牛や羊は第1胃でPUFAをSFAに変換することができるが、単胃である鳥や豚は飼料(穀物)中の脂肪酸がそのまま反映されるためPUFAが多い。鳥肉や豚肉の過剰摂取には注意が必要である。

糖質制限をしている糖尿病患者は、炭水化物33%、タンパク質33%、脂肪33%から始めることを提案する。1日1800kcalの食事として600kcalが炭水化物由来と考えると、炭水化物(糖質)150gに相当し、緩い糖質制限に相当する。ここから50gずつ糖質を増やして300g(66%)を目指す。糖質カウントの知識を身に着けることはとても重要である。砂糖のグリセミックインデックス(60%)は決して高くない。高血糖を恐れず、砂糖を積極的に摂取する勇気を必要である。

カロリー制限食や絶食や運動は結果的にストレスとなりコルチゾールを増加させる。朝食を抜くだけでも昼食と夜食の食後血糖が増加することが示されており、絶食でインスリン抵抗性が改善することはない。運動も、カロリー消化を目的とする有酸素運動よりも、筋肉量を増加する筋トレを推奨する。特に、糖をエネルギー源とし、グリコーゲンを多く貯蔵する速筋線維(タイプII)を増やすのが良い。筋トレの目標は筋肥大ではなくミトコンドリアを増やすことであり、コンセントリックな収縮(短縮性収縮)運動が望ましい。また、ミトコンドリア生合成の最大刺激はCO2であり、ブテイコ呼吸法が有効である。

Bioenergeticsによる慢性疾患の治療の骨子は、ストレスを減らし、PUFAの摂取を制限し、糖の酸化代謝を可能な限り高め、ホルモンバランスを是正し、腸内細菌叢を一定数に保ち、結果的に安静時基礎代謝量を増やす事である。肥満・2型糖尿病の治療においては、エネルギー代謝を改善し、活力に溢れた生活を送ることが目標である。現状のガイドラインによる治療では、体重や血糖のコントロールはできても、基礎代謝量を増やすことはできない。Bioenergeticsによる知識を駆使して基礎代謝量を増やす必要がある。

 

注)参考文献を確認したい方は、Ray Peat Forum(https://raypeatforum.com/community/)でキーワード検索してください。(例えば、Haidut, diabetes, mortality)HaidutはGeorgi Dinkovのペンネームです。