全ての油脂は、飽和脂肪酸(SFA)、一価不飽和脂肪酸(MUFA)、多価不飽和脂肪酸(PUFA)からなる。SFAとコレステロールが心血管疾患の原因であるとする仮説の基に、PUFAが主体である植物油(いわゆるサラダオイル)の摂取を推奨する食事ガイドラインが1980年に発出された。しかし、その後、多くの疫学的研究でPUFAの危険性が指摘され、ミネソタコロナリー試験などの介入試験でも、心血管疾患を起こすのはSFAではなくPUFAであることが証明された。他にも、肥満、糖尿病、うつ、アルツハイマー病、肝疾患、腎臓病、自己免疫疾患、がんなどの疾患や老化の原因となる。改めて、PUFAの有害性を列挙する。
① PUFAはミトコンドリア機能障害を引き起こす
食事PUFAはSFAやMUFAの様に酸化利用されず、脂肪組織に貯蔵されるため、リポライシスで生じる遊離脂肪酸のほとんどはPUFAとなる。PUFAはピルビン酸脱水素酵素(PDH)を不活化し、グルコース酸化を抑制し、脂肪酸酸化を促進する。一方、SFAとグルコースはPDHを活性化し、グルコース酸化を促進する。PUFAの酸化は活性酸素(ROS)を産出し、ミトコンドリア内膜のカルジオリピンを損傷して電子伝達系酵素群を不活化し、ミトコンドリア機能障害を引き起こす。
② PUFAは免疫抑制物質で発がん物質
PUFAはエストロゲンやコルチゾールと同様に胸腺を萎縮し、免疫能を抑制する。2002年、NIHは「エストロゲンは発がん物質」と公表した。PUFAはキセノ(異種)エストロゲンで発がん物質であり、細胞膜酸素輸送を障害して酸素利用能を低下させ、血管新生を促進する。SFAはPUFAアンタゴニストで、がんの発症と成長を抑制する。
③ PUFA代謝物であるプロスタグランジンとロイコトリエンは主な炎症パスウエイ
炎症の大部分はプロスタグランジンとロイコトリエンにより生じる。どちらも、ヒスタミンとセロトニンの合成を誘発し、炎症を拡大する。プロスタグランジンはシクロオキシゲナーゼ(COX)発現を増やし、プロスタグランジンをさらに増加させる悪循環を引き起こす。COXの活性化はがん成長を促進する。
④ PUFA過酸化物による細胞毒性
PUFAによるROSの増加により、PUFAからマロンジアルデヒド(MDA)や4ヒドロキキシノネナール(4HNE)などの過酸化物が生じ、細胞や組織を傷害する。MDA、4HNEなどのアルデヒドはアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)により不活化される。アンドロゲンはALDH発現を増やし、エストロゲンはALDH発現を減らす。加熱によりアルデヒドは100-200倍に増加する。
⑤ PUFAはエストロゲン性で、コルチゾールを増やし、アンドロゲンを減らす
PUFAはフタル酸、ビスフェノール、パラベンに匹敵するくらいエストロゲン性が強い。PUFAはエストロゲン受容体アゴニストで、アンドロゲンとプロゲステロンのアンタゴニストである。SFAはエストロゲン受容体アンタゴニストである。
PUFA(>MUFA)は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を促進しコルチゾール合成を促進するが、SFAは抑制する。また、PUFAは11b-HSD1発現の増加により、ACTH依存なしにコルチゾール合成を促進する。PUFAとMUFAはアンドロゲンを減らし、SFAとコレステロールはアンドロゲンを増やす。また、PUFAは甲状腺機能を低下し、SFAは増加する。PUFAは内分泌かく乱因子で、その強さは不飽和度に依存する(ω3>ω6)。
⑥ PUFAは腸管セロトニンを増加する
PUFAはトリプトファン水酸化酵素を活性化し、トリプトファンからセロトニンの合成を促進する。また、PUFA(アラキドン酸)はセロトニントランスポーター(SERT)の発現を低下させ、セロトニンを増やす。セロトニンはリノール酸からアラキドン酸の合成を促進し、悪循環が生じる。セロトニンは腸管バリアを障害し、エンドトキシンの血液への侵入を許し、TLR4受容体が活性化され、全身に炎症を引き起こす。セロトニンは代謝を低下させる。
⑦ PUFAは細胞膜透過性を増やす
PUFAとエタノールは細胞膜透過性を増やし(親水性)、毒、エストロゲン、コルチゾールなどの細胞内侵入を容易にするが、SFAは細胞膜構造を強化し(疎水性)、細胞内侵入を予防する。PUFAは細胞浮腫の原因となる。
⑧ PUFAの1日必要量は摂取カロリーの0.5%以下、1-2g/日程度で十分
PUFAは必須とは言えない。リノール酸もαリノレン酸もデノボ合成はできないが、食事由来の脂肪酸(16:2n6や16:3n3など)の伸長により合成は可能である。アメリカ人は平均して1食につき10g以上のPUFAを摂取している。摂取カロリーの約20%を100年前には存在しなかった植物油から得ている。
⑨ PUFA対策
植物油の使用を中止する。バター、ココナッツオイルに代える。低脂肪食を心がける。リポライシスを制限する。肥らないホルモン環境を維持する(コルチゾール、エストロゲンを減らし、アンドロゲンを増やす)。
注)参考文献を確認したい方は、Ray Peat Forum(https://raypeatforum.com/community/)でキーワード検索してください。PUFA疫学データについては、過去記事「植物油は危険である(疫学編)」https://www.facebook.com/muramo10/posts/751390208687249を参照してください。