生体エネルギー学の臨床(17) 全ての腸内細菌には病原性がある

病原性に多少の差異があるだけで、腸内細菌に善玉も悪玉もない。どんな細菌も増殖すれば害をなすので、可能な限り少ないのが望ましい。

腸内細菌は水溶性線維を発酵し、エネルギーが豊富な酪酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)を産生する。SCFAは肝臓に到達すると脂肪に変換されて蓄積し、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)となり、メタボリック症候群の原因となる。マウスの腸を殺菌すると、腸管細胞は利用するエネルギーをSCFAから糖に変え、インスリン感受性が改善する。

腸内細菌は腸管バリアの機能低下により、肝臓やリンパ節に移動し、持続的に住み着き、低グレードの感染症を引き起こし、肝疾患や自己免疫疾患の原因となる。マウスで、一般的な乳酸菌によるループス(SLE)の発症が確認されている。

私たちが産生する乳酸は主にL型である。しかし、腸内細菌の産生する乳酸はD型で毒性があり、その蓄積は小腸内細菌増殖症(SIBO)、ブレインフォグ、疲労、消化不良、鼓腸の原因となる。プロバイオティクスは腸管運動の低下している人には特に危険であり、鉄剤、オピオイドPPI、向精神病薬、老化などで腸管運動低下している場合は注意を要する。プロバイオティクスはCディフィシル菌や連鎖球菌などの病原菌には有益であろうが、常在菌には有益とは限らない。

エンドトキシンはグラム陰性菌細胞壁を構成するリポ多糖で、腸内細菌と共に増加する。エンドトキシンは腸上皮細胞のATPレベルを低下させ、腸管バリア機能を低下させる。エンドトキシンは腸管だけでなく全身のミトコンドリアにおける酸化的リン酸化反応を傷害する。つまり、腸を癒し、エンドトキシンを減らすことは、代謝の促進を意味する。

未消化物が大腸に運ばれる度にエンドトキシンは産生され、時間をかけて腸管バリアを傷害し、リーキーガットを引き起こす。リーキーガットが起きると、多くのエンドトキシンが門脈に侵入し、肝臓に排泄される。エンドトキシン自体が強い炎症性分子であり、全ての肝疾患(NAFLD、NASH、肝硬変、肝がん)の原因となり、そのレベルは肝疾患の重症度と相関する。エンドトキシンの多くの効果はTLR4受容体の活性化により生じ、下流のカスケードであるNO、セロトニンヒスタミン、IL-1/6、NF-kBを活性化し炎症反応を拡大する。

エンドトキシンや細菌が特別な組織で蓄積し、持続的な炎症反応により組織を破壊すると、免疫系が作動して細胞デブリスに対する特異的抗体を産生し、自己免疫疾患と診断される。急性期治療にはコルチゾールが処方され、その後ヒュミラなどの免疫抑制剤が処方される。コルチゾールは組織を破壊して免疫反応を増大するため、さらにコルチゾールを増量する悪循環に至る。

食事の10%を占めるシードオイルの多価不飽和脂肪酸(PUFA)は腸管バリアを傷害し、エンドトキシンの吸収を増やす。一方、飽和脂肪酸SFA)はリーキーガット、腸管ディスビオシスを改善する。

エンドトキシンは内皮機能障害、微小血栓、硬化症の原因となり粥状動脈硬化症に関与する。また、患者の粥腫にバクテロイデーテス細菌属の脂肪(エンドトキシン)を認めた。コレステロールではなくエンドトキシンが心血管疾患の原因の可能性がある。

腸管セロトニンの産生は、腸内細菌叢に完全に依存する。腸内細菌によりTLR2受容体が活性化されるとセロトニントランスポーター(5-HTT)が抑制され、腸管セロトニンが増加する。セロトニンの増加は腸間膜透過性亢進し、エンドトキシンの血管内への侵入を増やす。

また、セロトニン代謝のマスターレギュレーターである。マウスの腸管を殺菌するか、セロトニン合成抑制薬(TPHインヒビター)を使用すると、代謝、体重、健康が改善する。つまり、腸内細菌が少ないほど、セロトニンは減り、代謝は高くなり、より健康になる。SSRIも5-HTTを抑制し、セロトニンを増加させる。高PUFAダイエットもセロトニンを増やす。

 

腸内細菌に起因する疾患:うつ、自閉症統合失調症神経変性疾患パーキンソン病アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症など)、外傷性脳損傷、肝疾患、肥満、糖尿病、代謝症候群、自己免疫疾患(慢性関節リウマチ、ループス、強皮症、1型糖尿病など)、骨関節炎(変形性関節症)、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎クローン病過敏性腸症候群)、心血管疾患、がん、感染症(AIDS、COVID-19など)、性腺機能障害など。

 

避けるべき食材:水溶性線維、レジスタントスターチ、イヌリン、ペクチン、フルクトオリゴ糖、グアガムなど。

除菌:抗菌薬、抗真菌剤、活性炭、不溶性繊維(ニンジンサラダ)など。

TLR4受容体アンタゴニスト:ナルトレキソン、ベナドリル、シプロヘプタジン、ミアンセリン、エモジン、ナイアシナミド、VA、VB2、VD、プロゲステロン、オレンジジュースなど。

セロトニンアンタゴニスト:シプロヘプタジン、ベナドリル、オンダンセトロンなど。

腸管バリアの改善:ゼラチン/グリシン、VE(主に抗エストロゲン効果)、Mg、ナイアシナミド、VB群、SFAなど。

 

注)参考文献を確認したい方は、Ray Peat Forum(https://raypeatforum.com/community/)でキーワード検索してください。(例えば、Haidut, microbiome)HaidutはGeorgi Dinkovのペンネームです。