生体エネルギー学の臨床(16) カフェインについて

カフェインはメチルキサンチン誘導体の一つで喘息治療薬テオフィリンに類似する。カフェインの主な作用には、覚醒、強心性、脂肪酸分解、脳細動脈収縮、利尿などがある。カフェインは肝臓の代謝酵素CYP1A2で代謝され、最終的に尿酸となり排泄される。ニコチンはCYP1A2を増やすので、喫煙者のカフェインによる痛風発症リスクを高くする。

カフェインは脳内でアデノシンA2a受容体を遮断することにより、アデノシン蓄積による睡眠誘発作用を抑制し、結果として覚醒状態を維持しやすくする。アデノシンがドーパミン神経系のシナプスニューロンに発現するアデノシン受容体に結合すると、ドーパミン受容体が不活性化され、ドーパミンによる刺激伝達が抑制される。

メチルキサンチン誘導体はホスホジエステラーゼ(PDE)の非選択的な阻害作用があり、細胞内cAMP濃度の増加を引き起こす。これにより、心筋収縮力の増大、気管支平滑筋の弛緩、脳細動脈の収縮のような交感神経系興奮様作用を示す。これらの結果、糸球体濾過量 の増加と尿細管での水分の再吸収の抑制により利尿作用を現わす。また、カフェインによる糖代謝の促進も利尿を増やす。また、cAMP濃度の増加は胃酸を産生する壁細胞のプロトンポンプを活性化し、胃酸分泌を増加させる。

カフェインはアデノシンアンタゴニスト、セロトニンアンタゴニスト、GABAアンタゴニストであり、βアドレナジックアゴニスト、ドーパミンアゴニストである。

カフェインは5ARを活性化し、精巣でDHTを増やし、脳でプレグネノロン、DHEA、プロゲステロンを増やす。

カフェインはチトクロームCオキシダーゼの活性化、炭酸脱水酵素阻害作用、甲状腺刺激ホルモン(TSH)と成長ホルモン(GH)の抑制、運動(ストレス)によるトリプトファン水酸化酵素(TPH)増加の抑制、アスピリン吸収の促進などにより、代謝を増加させる。また、カフェインはアンカップリングを増やす。

カフェインは強力な抗がん効果がある。カフェインによるアデノシンレベルの低下は細胞内酸素レベルを増加し、がんを殺傷する免疫能を強める。また、カフェインはエストロゲン受容体とインスリン様成長因子(IGF-1)受容体を減らし、乳がん、子宮内膜がんを予防する。カフェインはUVB誘発チミン形成の抑制と日焼けの抑制により皮膚がんを予防する。肺がんでPDE4と低酸素誘導因子(HIF)の過剰発現は密接に関連する。カフェインは非特異的PDEインヒビターとしてNOを増加するが、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)インヒビターでもあり、正味のNOは低下する。ちなみに、バイアグラはPDE5インヒビターであるが、iNOSエンハンサーである。

他に、カフェインには強い抗ウイルス効果と抗菌効果がある。カフェインとクロロゲン酸は鉄をキレートする。

カフェインによる神経過敏(ストレス反応)は主に肝機能障害による。カフェインのストレス反応(心拍数上昇、血圧上昇、コルチゾール上昇、エピネフリン上昇など)は一時的であり、多くは4日以内に寛容される。持続的なカフェインの摂取(2週程度)は肝臓の脂肪放出を促進して脂肪肝を改善し、アドレナリン、コルチゾールを低下させ、インスリン感受性を高める。

また、20-30gの糖と共にカフェインを摂取することでストレス反応が起きないなら、肝臓のグリコーゲン貯蔵量の低下が問題であり、グリコーゲン貯蔵量は肝機能に依存する。空腹でカフェインを摂らないことが大事である。

肝機能改善には、ナイアシナミド、アスピリングリシンタウリン、テアニン、ビタミンB1、B6、E、K2、ビオチン、BCAAが有効である。

カフェインが200mg(3mg/kg)以下ならアドレナリンを増加させず、仕事量を増やす。600mg(9mg/kg)以上は遊離脂肪酸を増加させる。カフェインはレギュラーコーヒー100mlに60mg程度含まれ、コーヒー1杯150mlとして2杯でおよそ200mgとなる。半減期は約6hである。

カフェインは胃酸とペプシンレベルを増やす。低胃酸は甲状腺機能低下症の主なサインであり、カフェインは甲状腺ホルモンを一部代理する。胃の粘膜傷害にはHピロリ菌感染症、アルコールによる傷害、またはストレスが関与する。胃酸と比べ、コーヒーの酸性度は極めて低く、胃刺激物でない。逆に、カフェインは胃粘膜血流増加と白血球の活性化による胃粘膜保護効果により、NSAIDとアルコールから胃粘膜を保護する。カフェインとアスピリンの併用は代謝を高め、胃の健康を促進する。アスピリンによる胃粘膜損傷はグリシン欠乏による。

カフェインはうつ、AD、ALS、PD、ハンチントン病、MS、肥満、糖尿病、高血圧、IBS/IBD、NAFLD、アルコール性肝炎、B型・C型肝炎、肝硬変、肝がん、ハゲ、耳鳴り、骨粗鬆症、老化などに有効である。

 

注)参考文献を確認したい方は、Ray Peat Forum(https://raypeatforum.com/community/)でキーワード検索してください。(例えば、Haidut, caffeine)HaidutはGeorgi Dinkovのペンネームです。

害をなさず

酒にもゴルフの誘惑にも負けず
毎日コツコツと勉強する

ドグマを盲従することはせず
皆に阿保と蔑まれても
真実を追い求め
決して知ったかぶりをしない

PUFAを排除し
砂糖の摂取を恐れず

ストレスを鎮めて
睡眠を重んじ

筋肉を鍛えて
健康なからだをつくる

薬の処方は最小限とし
患者に決して害をなすことのない
そういう医者に私はなりたい 

 

生体エネルギー学の臨床(15) 肥満・糖尿病の食事療法

デンマークの観察研究でBMI(Body Mass Index)27の過体重で最も総死亡率が低く、BMI30以上の肥満の総死亡率もBMI18.5-25の正常枠と変わらなかった(肥満パラドックス)。また、2型糖尿病治療で血糖降下剤(インスリンも含む)による血糖正常化の安全性を確認する介入試験では、グリコヘモグロビンA1cの平均が7.5で総死亡率が最も低くなるU字型相関を示した。慢性的炎症が糖尿病の多くの合併症(心血管疾患や腎臓病など)の根本的な原因である。これまで高血糖がその原因と考えられてきたが、脂肪酸代謝物とミトコンドリア機能障害が原因であることが解明された。厳格な血糖コントロールをしても、2型糖尿病患者の総死亡率を改善できないのは、脂肪酸代謝物が炎症を起こし代謝障害を引き起こすからである。

肥満・糖尿病患者に対する3大栄養素の推奨比率は、炭水化物(C)60-65%、タンパク質(P)20%、脂肪(F)15-20%くらいの高炭水化物低脂肪食である。ちなみに、世界で最も心血管疾患(CVD)の少ないボリビアのチマネ人はC72%、P14%、F14%の高炭水化物食であり、CVDの多い米国人はC52%、P14%、F34%で脂肪の割合が大きい。

炭水化物でも、小腸で残らず消化吸収されるブドウ糖、果糖、砂糖などの単糖や二糖類(糖類)の摂取が望ましい。でんぷんなどの多糖類は小腸で消化吸収ができないレジスタントスターチを含み、水溶性繊維とともに腸内細菌のえさとなり、腸内細菌を増殖させるからである。また、糖類は同じ量のでんぷんよりも基礎代謝量を増加させる。

植物でも、完熟果物は問題が少ないが、穀物、野菜、豆類、ナッツには反栄養素と言われる有害化学物質(フィチン酸塩、シュウ酸塩、レクチン、グルテンなど)が含まれ、食物に含まれる必須栄養素やミネラルの吸収を妨げ、腸管バリア損傷(リーキーガット)の原因となる。植物を摂取する際、生は避け、良く調理して摂取するのが良い。

腸管バリアの保護には、飽和脂肪酸、ナイアシナミド、グリシン/ゼラチン、ビタミンA/D/E/K/B2などが有効である。また、腸内細菌の増殖を予防治療するためには、不溶性食物繊維(ニンジンサラダなど)や活性炭、抗菌薬などが有効である。また、TLR4アンタゴニストとしてナルトレキソン、シプロヘプタジン、プロゲステロンなどが有効である。

タンパク質は必須アミノ酸が豊富な動物性タンパク質の摂取が望ましく、摂取量の目安は0.7-1g/kg体重である。過剰に摂取したタンパク質は、コルチゾールの分泌を促進し、アミノ酸に分解され、肝臓で糖新生に利用されるが、アンモニアの産生量を増加させる。アンモニアは肝臓で尿素に変換され腎臓で排泄されるが、肝腎機能が低下した際には、タンパク質の摂り過ぎに十分注意が必要である。

脂肪は多価不飽和脂肪酸(PUFA)であるサラダオイルを極力避け、飽和脂肪酸SFA)であるココナッツオイル、バターの利用が望ましい。一価不飽和脂肪酸であるオリーブオイルも問題は少ない。反芻動物である牛や羊は第1胃でPUFAをSFAに変換することができるが、単胃である鳥や豚は飼料(穀物)中の脂肪酸がそのまま反映されるためPUFAが多い。鳥肉や豚肉の過剰摂取には注意が必要である。

糖質制限をしている糖尿病患者は、炭水化物33%、タンパク質33%、脂肪33%から始めることを提案する。1日1800kcalの食事として600kcalが炭水化物由来と考えると、炭水化物(糖質)150gに相当し、緩い糖質制限に相当する。ここから50gずつ糖質を増やして300g(66%)を目指す。糖質カウントの知識を身に着けることはとても重要である。砂糖のグリセミックインデックス(60%)は決して高くない。高血糖を恐れず、砂糖を積極的に摂取する勇気を必要である。

カロリー制限食や絶食や運動は結果的にストレスとなりコルチゾールを増加させる。朝食を抜くだけでも昼食と夜食の食後血糖が増加することが示されており、絶食でインスリン抵抗性が改善することはない。運動も、カロリー消化を目的とする有酸素運動よりも、筋肉量を増加する筋トレを推奨する。特に、糖をエネルギー源とし、グリコーゲンを多く貯蔵する速筋線維(タイプII)を増やすのが良い。筋トレの目標は筋肥大ではなくミトコンドリアを増やすことであり、コンセントリックな収縮(短縮性収縮)運動が望ましい。また、ミトコンドリア生合成の最大刺激はCO2であり、ブテイコ呼吸法が有効である。

Bioenergeticsによる慢性疾患の治療の骨子は、ストレスを減らし、PUFAの摂取を制限し、糖の酸化代謝を可能な限り高め、ホルモンバランスを是正し、腸内細菌叢を一定数に保ち、結果的に安静時基礎代謝量を増やす事である。肥満・2型糖尿病の治療においては、エネルギー代謝を改善し、活力に溢れた生活を送ることが目標である。現状のガイドラインによる治療では、体重や血糖のコントロールはできても、基礎代謝量を増やすことはできない。Bioenergeticsによる知識を駆使して基礎代謝量を増やす必要がある。

 

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生体エネルギー学の臨床(14) インスリン抵抗性の原因はPUFAとストレス

 

 

PUFAがインスリン抵抗性の主因であることは間違いない。ミトコンドリアにおける脂肪酸酸化の増加による還元ストレスの増加(NAD/NADH比の低下)、酸化的リン酸化の抑制、プロスタグランジンや過酸化代謝物による炎症反応、エストロゲンコルチゾール様の内分泌効果、エンドトキシンの活性化、膵臓β細胞への毒性、インスリンシグナルを直接阻害などにより、PUFAはインスリン抵抗性を引き起こす。(詳細は過去記事「インスリン抵抗性のメカニズム」を参照)

もう一つの重要な原因は慢性的ストレスである。慢性的ストレスによる視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸の過剰な活性化は全ての病気の原因となり、甲状腺機能を低下させる。コルチゾールインスリンによる肝臓と筋肉のグリコーゲン合成を阻害し、肝臓の糖新生の抑制や脂肪細胞の脂肪分解の抑制を阻害し、インスリン抵抗性を引き起こす。遊離脂肪酸の増加や交感神経系の活性化も同時に起こり、インスリン抵抗性はさらに悪化する。

また、慢性的なコルチゾールは、TLR系のシグナルの増加と、プロスタグランジン産生酵素(COX2)発現の増加により、長期的には炎症反応を増加させる。インスリンは抗炎症効果があり、コルチゾールの炎症効果に拮抗する。つまり、高炭水化物食には抗炎症効果がある。

長期的な絶食(またはカロリー制限食)と運動はストレスとなる。絶食や運動による体重の低下は、代償機転により安静時基礎代謝量(RMR)を減らす。脂肪酸酸化の増加による体重の低下はインスリン抵抗性を改善しない。また、コルチゾールによる筋肉分解による糖新生は常に病的である。インスリン抵抗性の改善のためには、RMRを増やし、HPA軸の柔軟性を回復することが重要であり、体重は好ましくない環境に適応した一徴候でしかない。また、細胞内の乳酸の蓄積は低代謝状態の信頼できる徴候であり原因でもある。

ストレス過多の治療にはコルチゾール作用のブロックが必要となる。実際、コルチゾール受容体拮抗薬であるミフェプリストン2型糖尿病の治療に有効である。プロゲステロン、DHEA、プレグネノロン、テストステロン、VD、アスピリンなどでも、コルチゾール作用を低下させることが可能である。また、高炭水化物食はミトコンドリアにおける糖酸化を増やしてRMRを増加し、インスリン抵抗性を改善する。

肝臓で合成する性ホルモン結合タンパク質(SHBG)やアルブミンの低下は死亡率を増加し、肝代謝の健康指標である。肝臓はエストロゲンコルチゾール、アルドステロンを処理不活化し、T3を合成する。インスリン抵抗性は肝臓の機能低下とも言える。

最後に、腸内細菌とエンドトキシン、腸内細菌に依存するセロトニンインスリン抵抗性の原因である。抗菌剤による殺菌はインスリン抵抗性を改善する。

 

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生体エネルギー学の臨床(13) グリシン、タウリン、テアニンについて

 

グリシン

グリシンは抑制系神経伝達物質である。ブドウ糖グリシン受容体アゴニストである。大量の糖を摂ると眠くなるのはグリシン受容体を通して脳を抑制するからである。また、グリシンはGABAアゴニストでもある。GABAアゴニストはコルチゾールを低下させ、結果的に血糖を低下させる。また、グリシンは抗セロトニン効果がある。

グリシンは5-ARを活性化し、アロプレグナノロンとDHTを増やし、コルチゾールエストロゲンの不活化を促進する。アロプレグナノロンは胆汁酸受容体(TGR5)を活性化し代謝を増加する。

グリシンはエンドトキシンとTLR4アンタゴニストである。グリシンはCaイオン流入を抑え、抗炎症、免疫調節効果を発揮する。グリシンはカプシド形成を予防し、普遍的な抗ウイルス効果がある。グリシンミトコンドリアの老化を元に戻す。グリシンメチオニン制限と同じくらい寿命を延ばす。グリシンは肝臓の鉄毒性から守る。グリシンは血管内皮細胞増殖因子(VEGF)インヒビターで、がんを予防治療する。また、グリシンアスピリンの吸収を増やし、アスピリンの不利益な胃腸傷害を完全に取り除く。ゼラチンで代用可(30%がグリシン)。

不眠症、せん妄、幻覚症、統合失調症脳卒中、耳鳴り、肥満、脂肪肝(NAFLD/NASH)、脂質異常症、アルコール性肝障害、T1D、T2D、GERD、出血性潰瘍、IBD、糖尿病性神経症、クッシング症候群、骨粗鬆症、がん、がん悪液質、老化などを治療する。

 

タウリン

タウリンは胆汁酸産生を促進する。胆汁酸は全身に広く発現する胆汁酸受容体(TGR5)に結合し、糖代謝を改善し、肝臓のグリコーゲンを増加させる。胆汁酸は肝臓の脱ヨード酵素を活性化してT4→T3変換を促進し、基礎代謝量を増加させる。Se、ZnもT4→T3の変換を促進する。

タウリンはGABAアゴニストで、ドーパミンを増やす。タウリンは脳におけるトリプトファンの毒性を打ち消す。タウリンはテストステロンを増やす。タウリンはPUFAとエストロゲンの排泄を促進し、インスリン抵抗性を改善する。

タウリンはビタミンA、D、E、Kの生物学的利用度を高める。タウリンは食事からのタンパク質の利用を劇的に改善する。

タウリン、BCAA、MgはCaイオンチャンネルの抑制により、心筋梗塞の損傷を軽減する。タウリンは線維化を抑制する。タウリンはVEGFインヒビターでがんに有効である。ウイルス、細菌、真菌、毒物の排泄を促進する。タウリンアスピリンの吸収を倍増する。

不眠症、うつ、精神病、PD、AD、脱毛症、肥満、糖尿病、高血圧、心筋梗塞脳梗塞甲状腺機能低下症、腎障害、炎症性疾患、がんなどを治療する。

 

テアニン

テアニンは緑茶・紅茶に含まれる旨味成分である。テアニンはGABAアゴニストである。テアニンはセロトニン合成阻害と分解促進により強力にセロトニンを減らす。一方、ドーパミンを増やし、グルタミン酸アンタゴニストである。また、テアニンで脳のα波を増やして鎮痛効果がある。

また、テアニンはコルチゾールを減らし、アンドロゲンを増やし、エストロゲンを減らす。

テアニンは肥満細胞を安定させ、抗ヒスタミン、抗セロトニン効果を発揮し、アナフィラキシーショックを抑制する。緑茶(カテキン)はエストロゲン性なので摂りすぎに注意が必要。

不眠症、うつ、興奮性、IBS/IBDアナフィラキシーショックなどを治療する。

 

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生体エネルギー学の臨床(12)  アスピリンについて

古代ギリシャ・ローマの時代から、柳の樹皮に解熱作用のあることは知られていた。19世紀にはサリチル酸が分離され、解熱鎮痛剤として使用された。1897年、バイエル社サリチル酸をアセチル化することで胃腸障害の少ないアセチルサリチル酸アスピリン)を合成した。アスピリンはシクロオキシナーゼ(COX)をアセチル化により阻害し、プロスタグランジン産生を抑制して抗炎症作用・解熱作用を、トロンボキサンの産生を抑制して抗血小板作用を発現する。

アスピリンは11b-HSD1を抑制しコルチゾール合成を減らす。アスピリンはアロマターゼインヒビターでエストロゲン合成を減らし、テストステロンを増やす。アスピリンは腸からのトリプトファン吸収を阻害し、セロトニン合成を減らす。アスピリンチロシンキナーゼを活性化し、ドーパミン合成を増やす。さらに、アスピリングルタミン酸アンタゴニストでグリシンを低下させる。

アスピリンはBBOXインヒビターでカルニチン合成を阻害し、脂肪酸酸化を抑制する。アスピリンは脂肪合成酵素の発現を抑制し、脂肪酸合成を抑制する。アスピリンはチトクロームCオキシダーゼの発現を増やす。アスピリンミトコンドリアのアンカップリングを増やす。アスピリンは脂肪細胞の脂肪分解を抑制する。アスピリンセラミド合成を抑制する。アスピリンは脂肪代謝の改善によりインスリン感受性を高める。

アスピリンはNFkBを抑制し、老化と炎症で増加するミトコンドリアの分裂(フラグメンテーション)を減らす。

他にも、アスピリンは線維化を予防する。アスピリンは抗菌、抗真菌効果がある。アスピリンバイアグラと同等のED治療効果がある。アスピリンは骨折を減らし骨密度を上げる。アスピリンアスピリンは鉄をキレートする。

アスピリンは胃腸出血と脳出血のリスクを問題視されることが多いが、心筋梗塞脳梗塞、がんのリスクを減らすなど、健康利益の方がはるかに大きい。実際、アスピリンによる胃腸出血が死亡率を増加させることはない。また、アスピリンエストロゲンを抑制し、血管の脆弱化を防ぐことで、脳動脈瘤の成長を遅らせ出血リスクを減らす。アスピリンの胃腸出血はピロリ菌感染が原因である場合が多い。アスピリンによる粘膜傷害に重曹グリシン、カフェイン、テアニン、Mg、ビタミンB6が有効である。ビタミンKも出血リスクを減らす。また、ピロリ菌にココナッツオイルが有効である。

アスピリンは全てのがんの発症を予防し、死亡率を低下させる。容量が多いほど有効である。特に、乳がん前立腺がん、大腸がんに有効である。アスピリンは寿命を延ばす。

その他、片頭痛、うつ、統合失調症、MS、PD、ハンチントン、AD、肥満、糖尿病、心疾患、脳梗塞、子癇前症、早産、先天性欠損症、B型肝炎C型肝炎、肝硬変、胆石、慢性膵炎、肺気腫HIV感染症、炎症性疾患、腎臓病、敗血症、がん、悪液質を治療する。

 

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生体エネルギー学の臨床(11) ナイアシナミド(ニコチン酸アミド、ニコチンアミド)について

ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドNAD+)は、生体の全ての細胞に存在する普遍的な電子輸送体、補酵素、シグナル伝達分子で、細胞の機能と生存に不可欠である。

NAD+はナイアシナミド(NAM)より合成され、NAD/NADH比を増加することで、酸素呼吸(酸化的リン酸化)を活性化して、解糖系を抑制する。クレブス回路で産生されたCO2は乳酸合成を抑制する。また、NAMはミトコンドリア生合成を刺激し、グリコーゲン貯蔵を促進し、インスリン感受性を改善する。

NAMは脂肪組織の脂肪分解を抑制し、また、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ(CPT1)を阻害して、ミトコンドリアにおける長鎖脂肪酸代謝を抑制する。

NAMはヒストン脱アセチル化酵素 (HDAC)インヒビターである。サーチュイン(SIRT)はNAD依存性HDACの一つである。SIRTにより、がんは脂肪酸酸化(FAO)と脂肪酸合成(FAS)を同時に亢進する。NAMはSIRTを抑制し、FAO/FASを抑制し、がん治療を促進する。また、NAMはHDACを阻害してT細胞を活性化し免疫能を改善し、ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)の抑制によりアポトーシスを防ぐ。

NAMはコルチゾール不活化酵素(11b-HSD2)を活性化し、コルチゾール合成酵素(11b-HSD1)を抑制し、コルチゾール合成を低下させる。また、SIRT1はエストロゲン受容体(ER)発現を増やすため、NAMは抗エストロゲン性であり、5-ARを活性化してDHT合成を増やす。

NAMはセロトニンのアンタゴニストでGABAアゴニストである。

NAMはNSAIDアスピリン含む)による胃の損傷を治療する。同様に、重曹、カフェイン、グリシンタウリン、B6も有効である。

NAMはSIRTインヒビターであるが、ニコチンアミドモノヌクレオチド(MNM)、ニコチンアミドリボシド(NR)、レスベラトロールはSIRTアクチベーターである。

ナイアシン(B3)はNAD+合成のためにNAMに変換される必要がある。NAMと異なり、ナイアシンヒスタミンセロトニンを分泌し、肝臓グリコーゲンを減らし、高インスリン血症を引き起こす

NAMは、流産、死産、先天性欠損症、子癇前症、うつ、PTSD、ALS、PD、AD、脳梗塞、肥満、T1D、T2D、心不全、ストレス潰瘍、アルコール性肝疾患、NAFLD、肝硬変、B型肝炎、腎不全、ウイルス感染症、細菌感染症、真菌感染症結核、リーキガット、エンドトキセミア、アレルギー、自己免疫疾患、免疫不全、骨粗鬆症サルコペニア、メラノーマ、乳がん前立腺がん、肝がん、膵がん、大腸がん、老化などを治療する。

 

注)参考文献を確認したい方は、Ray Peat Forum(https://raypeatforum.com/community/)でキーワード検索してください。(例えば、Haidut, niacinamide, SIRT)HaidutはGeorgi Dinkovのペンネームです。