生体エネルギー学の臨床(14) インスリン抵抗性の原因はPUFAとストレス

 

 

PUFAがインスリン抵抗性の主因であることは間違いない。ミトコンドリアにおける脂肪酸酸化の増加による還元ストレスの増加(NAD/NADH比の低下)、酸化的リン酸化の抑制、プロスタグランジンや過酸化代謝物による炎症反応、エストロゲンコルチゾール様の内分泌効果、エンドトキシンの活性化、膵臓β細胞への毒性、インスリンシグナルを直接阻害などにより、PUFAはインスリン抵抗性を引き起こす。(詳細は過去記事「インスリン抵抗性のメカニズム」を参照)

もう一つの重要な原因は慢性的ストレスである。慢性的ストレスによる視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸の過剰な活性化は全ての病気の原因となり、甲状腺機能を低下させる。コルチゾールインスリンによる肝臓と筋肉のグリコーゲン合成を阻害し、肝臓の糖新生の抑制や脂肪細胞の脂肪分解の抑制を阻害し、インスリン抵抗性を引き起こす。遊離脂肪酸の増加や交感神経系の活性化も同時に起こり、インスリン抵抗性はさらに悪化する。

また、慢性的なコルチゾールは、TLR系のシグナルの増加と、プロスタグランジン産生酵素(COX2)発現の増加により、長期的には炎症反応を増加させる。インスリンは抗炎症効果があり、コルチゾールの炎症効果に拮抗する。つまり、高炭水化物食には抗炎症効果がある。

長期的な絶食(またはカロリー制限食)と運動はストレスとなる。絶食や運動による体重の低下は、代償機転により安静時基礎代謝量(RMR)を減らす。脂肪酸酸化の増加による体重の低下はインスリン抵抗性を改善しない。また、コルチゾールによる筋肉分解による糖新生は常に病的である。インスリン抵抗性の改善のためには、RMRを増やし、HPA軸の柔軟性を回復することが重要であり、体重は好ましくない環境に適応した一徴候でしかない。また、細胞内の乳酸の蓄積は低代謝状態の信頼できる徴候であり原因でもある。

ストレス過多の治療にはコルチゾール作用のブロックが必要となる。実際、コルチゾール受容体拮抗薬であるミフェプリストン2型糖尿病の治療に有効である。プロゲステロン、DHEA、プレグネノロン、テストステロン、VD、アスピリンなどでも、コルチゾール作用を低下させることが可能である。また、高炭水化物食はミトコンドリアにおける糖酸化を増やしてRMRを増加し、インスリン抵抗性を改善する。

肝臓で合成する性ホルモン結合タンパク質(SHBG)やアルブミンの低下は死亡率を増加し、肝代謝の健康指標である。肝臓はエストロゲンコルチゾール、アルドステロンを処理不活化し、T3を合成する。インスリン抵抗性は肝臓の機能低下とも言える。

最後に、腸内細菌とエンドトキシン、腸内細菌に依存するセロトニンインスリン抵抗性の原因である。抗菌剤による殺菌はインスリン抵抗性を改善する。

 

注)参考文献を確認したい方は、Ray Peat Forum(https://raypeatforum.com/community/)でキーワード検索してください。(例えば、Haidut, insulin resistance)HaidutはGeorgi Dinkovのペンネームです。