生体エネルギー学の臨床(4)コルチゾールについて

コルチゾールは副腎皮質から分泌される生命維持に欠かせないホルモンである。主な働きは、抗ストレス作用(闘争か逃走)、糖新生(筋肉タンパク質をアミノ酸に分解し、肝臓でブドウ糖を合成)、脂肪分解(エネルギー供給)、抗炎症作用・免疫抑制作用である。コルチゾールが過剰なクッシング症候群では中心性肥満、糖尿病、高血圧、筋力低下、骨粗鬆症などを呈し、炎症による組織破壊が全身に及ぶ。慢性的なコルチゾール上昇は炎症を惹起する。そのメカニズムとして、エンドトキシンと細胞デブリス(破壊組織片)の関与が解明されている。
 免疫とは、体内に蓄積したゴミ(損傷/病的組織のデブリス)を掃除するためのシステムであり、生体が環境に適応してその形態形成維持(morphostasis)のために保有する機能である。特別な組織を攻撃し破壊殺傷することではない。生体の免疫応答を作動させる分子には、微生物特有の分子である病原体関連分子パターン(PAMP)と自己由来の起炎性因子であるダメージ関連分子パターン(DAMP)がある。PAMPとDAMPを認識する受容体(パターン認識受容体)にTLRなどが含まれ、PAMPとDAMPの重複認識が免疫応答を多様化し、慢性炎症の下地を構築する。
ストレスが原因であるPTSD患者は自己免疫疾患を合併しやすい。ストレス(コルチゾール)による腸管バリアの破壊によりエンドトキシンが血液への流入すると、TLR受容体を介してPAMPと認識され、慢性的な低グレードの炎症反応を引き起こす。エンドトキシンや細菌が特別な組織に蓄積すると、組織破壊が加速し、免疫系は組織の細胞デブリスに対する特別な抗体を産生するようになる。患者は特別な組織/器官の自己免疫疾患と診断されて、コルチゾールを投与されるが、そのカタボリック効果(異化)によりさらに組織は破壊され、さらに強力な免疫反応を誘導する悪循環を生み出す。コルチゾールは短期的には症候をマスクできても、長期的には全身の炎症状態を悪化させる。
また、ストレスや損傷により形成されて血中に放出された細胞デブリス、特にミトコンドリアDNAは、DAMPとして免疫応答を引き起こす。ミトコンドリアは細菌由来なため、免疫細胞はそのDNA構造を異物と認識する。血中の細胞デブリスはHPA軸を活性化するため、副腎は大量のコルチゾールを分泌し、細胞デブリスをさらに増やす悪循環を生み出す。
自己免疫疾患を含む慢性炎症性疾患の治療は、まず、ストレッサーを除去することが最も重要である。次に、組織のカタボリズム/損傷を止め、炎症を抑えることである。テストステロン、DHT、DHEA、プレグネノロン、プロゲステロンの様なアナボリック(同化)ステロイドは免疫応答を迅速に止め、コルチゾール効果をブロックする。ビタミンD、Aは直接的コルチゾールアンタゴニストである。
また、コルチゾールエストロゲンは胸腺を萎縮させ、免疫力低下により全てのがんの原因となる。コルチゾールミトコンドリアにおける脂肪酸酸化と脂肪合成を促進するためである。高炭水化物食は糖酸化によるエネルギー代謝の改善とともにコルチゾール(ストレス)を低下させ、胸腺を肥大させる。アスピリンとナイアシナミドも有効である。
低炭水化物食、ケト、絶食、運動はストレス(コルチゾール)を増やし、代謝を低下させ、肥満、インスリン抵抗性の原因となる。健康であることは安静時基礎代謝量(RMR)が高いことであり、ストレスで代謝量を高く維持することではない。絶食と運動が有効なのはRMRが高い人だけである。
注)参考文献を確認したい方は、Ray Peat Forum(https://raypeatforum.com/community/)でキーワード検索してください。(例えば、Haidut, cortisol, inflammation)HaidutはGeorgi Dinkovのペンネームです。