「アテローム性動脈硬化プラークはコレステロール(LDL)からなる」とするコレステロール仮説を、世界中の循環器専門医を含めた全ての人が信じて疑いません。しかし、LDLが内皮下にどのように取り込まれ、プラーク内の脂質は本当にLDLであるのかすら、実は証明されていないのです。
一方、プラークは血栓の内膜への沈着の結果生じるとする血栓形成仮説があります。血栓は内皮損傷部位を覆うように生じ、血液中の血管内皮前駆細胞 (EPCs)が血栓に張り付いて新しい内皮細胞となり、血栓は内皮下に収まります。また、EPCsは単球に分化してマクロファージとなり、血栓残渣の掃除をして泡沫細胞となることも明らかになりました。プラーク破裂と引き続く治癒過程は急速なプラーク拡大の主な要因と考えられ、冠動脈狭窄が段階的に進展することを説明します。プラーク内の脂質は血栓形成過程で必要な赤血球とLp(a)に由来すると考えると、全てで合点が行き矛盾がありません。
アテローム性動脈硬化症による心血管疾患(CVD)のリスクには、喫煙、糖尿病、高血圧、慢性腎臓病、血管炎、視床下部-下垂体-副腎軸機能障害(コルチゾール)、精神的ストレス、感染症、肺塞栓症などがありますが、どれも、グリコカリックスと内皮の損傷、大きく除去が難しい血栓、修復システムの障害の3点に関与し、血栓形成を促進します。特に、人や動物で肺塞栓症により、他のリスクなしに、血栓だけで肺動脈にプラークが形成されることが証明されたことは、血栓形成仮説の妥当性をより強固にしました。ちなみに、LDLはCVDのリスクではありませんでした。(Weng SF, PLoS ONE. 2017)(つづく)