糖質制限食によるLDLコレステロールの増加:Lean Mass Hyper-Responderの証明

糖質制限食による LDLコレステロール(以下LDL)の変化は均一ではない。糖質制限食(130g/日以下)を続けた597人でBMIと脂質マーカーとの相互関係を調べたところ、BMIはLDLの変化と逆相関した。また、健康な代謝のマーカーであるTG/HDL比の減少はLDLの増加を予測した。糖質制限食によりLDL>200、HDL>80、TG<70を充たす群(Lean Mass Hyper-Responders)は112名存在し、BMIはより低かったが、残りの群と比べて糖質制限前のLDLに差はなかった。症例研究では、厳格な糖質制限で超高値LDLを認めた患者5例で、フルーツやでんぷんによる糖質制限食の緩和(50g-100g/日)によりLDLの顕著な低下を認めた。(Norwitz NG, Current Developments in Nutrition, 2021)

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糖質制限食によるLDLの著明な増加は痩せて代謝的に健康な人でより起きやすい。糖質制限食前のTG/HDL比が低く、BMIが低いほどLDL増加に強く関連した。さらに、LMHR群の存在を証明し、糖質制限前のLDLは普通で糖質制限後に著明に増加する特徴を明らかにした。LMHRは動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の高リスクな集団で観察される脂質異常症のパターン(高LDL・高TG・低HDL)とは対照的である。(Bagheri P, BMC Endocr Disord. 2021)

高TG/HDL比、small dense LDLプロファイルはASCVDの脂質異常に特徴的であるが(Libby P. Nature. 2021)、LMHRでは逆パターンを示す。ASCVDのリスク因子を調べたWomen’s Heart Studyでは、インスリン抵抗性脂質異常症(高TG・低HDL)は高LDLよりもASCVDに関連した。(Dugani SB, JAMA Cardiol. 2021)4S試験では、高LDL患者は高TG・低HDL患者と比べ冠疾患イベントリスクが低く、スタチン治療で利益が得られなかった。(Ballantyne CM, Circulation. 2001)さらに、糖質制限食はLDL粒子サイズを増加し、同じLDLレベルでもリスクを低下させた。(Falkenhain K, Am J Clin Nutr. 2021)

また、脂肪酸化とケトーシスを促進するSGLT2阻害薬がLDLを増加させるがASCVDリスクを低下させることから類推すると、酸化器質を炭水化物から脂肪に転換することは本質的にLDLを上昇させる可能性を示唆する。(Basu D, Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2018)炭水化物摂取の低下はリポプロテインリパーゼによるVLDLからLDLやHDLへのリモデリングの増加と共にVLDL系粒子による脂肪エネルギーの運搬系を増加させ、結果的に高LDL、高HDL、低TGとなる。(Kontush A. Trends Mol Med. 2020)この効果は痩せてエネルギー需要が高くインスリン感受性の高い人で著明であると推測され、他の論文にも一致する。(Bak AM, PLoS One. 2018)しかし、これらは糖質制限食による高LDLがASCVDのリスクとはならないことを意味するわけではなく、さらなる検討が必要である。

一方、糖質制限食が特に役に立つ肥満や2型糖尿病患者では、糖質制限によりLDLの増加は少なく、脂質プロファイルが改善しASCVDリスクマーカーが軽減する可能性がある。(Ebbeling CB, Am J Clin Nutr. 2021)

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