高尿酸血症は本当に治療が必要なのか?

高尿酸血症は単に痛風の原因であり、さらに、慢性腎臓病(CKD)患者に観察される高尿酸血症は腎不全による尿酸排泄障害の結果であると考えられ、積極的は治療対象とは考えられていなかった。

およそ毎日700mgの尿酸が合成され、70%は尿に、30%は腸管に排泄され、尿酸プールはおよそ1200mgである。尿酸合成が尿酸排泄を上回ると高尿酸血症となり、> 7.0 mg/dLと定義される。(Hisatome I., Gout Uric Nucleic Acids. 2020)

尿酸合成増加も高尿酸血症の原因ではあるが、高尿酸血症の90%は腎臓による尿酸の排泄障害により、CKD患者の50%は透析前に高尿酸血症を合併する。近位尿細管の尿酸輸送体としてURAT1、GLUT9、ABCG2が確認され、これらの機能障害が高尿酸血症の主な原因と考えられている。(Merriman T.R., Jt. Bone Spine. 2011)

基礎科学から、炎症、内皮障害、血管平滑筋細胞の増殖、RAS系の活性化などにより、高尿酸血症がメタボリック症候群(Mets)、心血管疾患(CVD)、CKD発症の原因であることが示されている。(Yu W., Front. Pharmacol. 2020)臨床研究でも高尿酸血症はMets、CVD、CKDの発症との関連が報告され、さらに、尿酸低下治療はこれらの疾患の進展を遅延させるとの報告も多い。

一方、尿酸の抗酸化能は主に中枢神経系に好ましい効果があり、グルタミン酸フリーラジカルを中和し、急性脳卒中で有益である。また、低尿酸血症は神経変性疾患であるアルツハイマー病、ハンチントン病パーキンソン病多発性硬化症の発症との関連が報告されている。尿酸値と全ての原因による死亡の関係はJ型曲線を描き、低くても高くても死亡率が高くなる。(Srivastava A, Am J Kidney Dis. 2018)

疫学研究、観察研究では高尿酸血症はCVD、CKDとの関連を認めるが、メンデル・ランダム化試験では関連を認めなかった。(Bardin T, BMC Med. 2017)

尿酸低下治療(ULT)によるCVD予防効果を調べた18試験のメタアナリシスで心血管死も全ての原因による死亡も有意差を認めなかった。(Zhang T., Rheumatology. 2017)また、ULTによるCKDの進行の遅延を調べた8無作為比較試験のメタアナリシスでも有意差を認めなかった。(Bose B, Nephrol Dial Transplant. 2014 )

結論として、尿酸低下薬物治療のリスクベネフィット比は不明である。(Chalès G. Joint Bone Spine. 2018)無症候な高尿酸血症がCVDやCKDの独立した危険因子であるかは不明であり、その治療が必要かも不明である。(Petreski T, Bevc S.Ren Fail. 2020)

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