2型糖尿病は肝膵の異所性脂肪蓄積による

ジェイソン・ファングは『内臓に蓄積した異所性脂肪による生理的欠陥』により2型糖尿病を発症すると説明しますが、これも画期的でとても納得がいきます。
異所性脂肪の蓄積には2相があります。第1相は、肝臓と筋肉に蓄積した異所性脂肪によるインスリン抵抗性の上昇です(脂肪肝と脂肪筋)。第2相は、膵臓に蓄積した異所性脂肪による膵β細胞の機能低下です(脂肪膵)。
肝臓の細胞はブドウ糖で溢れた(オーバーフロー)状態を解除するために、ブドウ糖から脂肪を生成します。脂肪が外に送り出されるよりも多く生成されると脂肪肝になります。脂肪肝は体全体の肥満より、インスリン抵抗性や糖尿病への決定的な踏み石となります。つまり、インスリン抵抗性の大部分は、ブドウ糖のオーバーフローにより膨れ上がった脂肪肝によるものなのです。
インスリンの産生低下は、膵臓が消耗したためではなく、膵臓に脂肪が蓄積したことによります。膵臓に蓄積した過度の脂肪は、2型糖尿病患者にしか見られません。膵臓に脂肪が多いほど、インスリンの分泌が少なくなります。胃バイパス手術や断食により、膵臓の脂肪が減り、インスリン分泌能が戻ることが分かってきました。
肥った患者であっても、異所性脂肪の蓄積がなければ、インスリン抵抗性は進展しません。これは、肥満患者のおよそ20%は、インスリン抵抗性がなく、代謝異常もないことを説明します。逆に、正常体重でも、40%に代謝異常を認めますが、これは異所性脂肪の蓄積によるインスリン抵抗性によるものと考えられます。
2型糖尿病は、脂肪肝によるおよそ10年のインスリン抵抗性の増大の後に、脂肪膵によるインスリン分泌機能低下に加わり、発症するものと考えられます。
詳細はフイスブック・ノートの「Jason Fung 'DIABETIC CODE'ジェイソンファングの糖尿病コード」を参照してください。

大食するから肥るのではなく、肥るから大食する

 慢性的にインスリンが高いと、脂肪細胞から分泌された満腹ホルモン(レプチン)のシグナルを抑制するため、満腹中枢である視床下部腹部内側核は飢餓状態と感じるようになります。これが交感神経系の活動を減らし(怠け)、迷走神経活動を増やします(大食)。同様に中脳の腹側被蓋野に対するレプチンシグナルも抑制することにより、報酬感を高め大食に至らしめます。また、ストレスによる扁桃体の慢性的な活性化によりコルチゾールが上昇すると、インスリン抵抗性が悪化し、インスリンがさらに増え、体重が増加します。脳の3つ経路(飢餓、報酬、ストレス)が同時に働くことで、私たちは肥満やメタボリックシンドロームを避けることができなくなります。この大脳辺縁系のトライアングルは、バミューダトライアングルと同様に、一度入り込んだら出られません。
肥満は脳のホルモン異常の結果なのです。大食して怠けるから肥るのではなく、肥った結果、大食して怠けるのです。この要となるのがインスリンです。体重に関わらず、多くの人のインスリンは、同じ量の糖に対して、30年前より倍分泌されています。人類史上、私たちは最も高インスリン血症になっています。写真は1歳で20kgの赤ちゃんです。肥っているのは意志が弱いからでしょうか?詳細はフェイスブック・ノートの「Why We Get Fat 私たちはなぜ肥るのか(ゲーリー・トーベス)」を参照してください。

砂糖(果糖)は毒である

 砂糖はブドウ糖グルコース)と果糖(フルクトース)からなります。ブドウ糖は全ての臓器で利用される良質な炭水化物であり、80%が全身で利用され、残りの20%が肝臓で代謝されます。その多くはグリコーゲンとして貯蔵され、残りがTCA回路でATPに変わり、脂肪になるのはごくわずかです。
アルコールは10%が消化管、10%が脳や筋肉などで利用され、残りの80%が肝臓で代謝されます。有毒なアセトアルデヒドに分解され、活性酸素を生成します。アセトアルデヒドは酢酸に変わり、TCA回路で利用されますが、大量で処理しきれい分は脂肪(VLDL)に変換されます。これが内臓脂肪として蓄積し、インスリン抵抗性を引き起します。
果糖は100%が肝臓で代謝され、グリコーゲンとして貯蔵されることはなく、ほとんどすべてがピルビン酸に代謝され、TCA回路に運ばれますが処理しきれないため、多くがアルコールと同様に脂肪に変換されます。また、果糖の初期代謝に大量のATPが消費されるため、尿酸が増加し、痛風と高血圧の原因となります。
果糖は脳で代謝されないので、アルコールの様な急性の副作用はありませんが、高血圧、冠動脈疾患、脂質異常症、膵炎、肥満、脂肪肝、依存症など、アルコールと同じ慢性的な副作用を引き起こします。果糖とアルコールは、代謝のメカニズムが同じであり、「果糖は酔わないアルコール」とも言えるでしょう。アルコールには規制がありますが、砂糖(果糖)にはありません。砂糖の規制をしない限り、増え続けるメタボリックシンドロームを止めることはできないでしょう。詳細はフェイスブック・ノートの「Fat Chance(砂糖に隠された真実) ロバート・ラスティグ」を参照してください。

米国大人の半分が代謝異常

 米国の大人の肥満(BMI>30)の20%には全く病気がありません。一方、正常体重(残り)の40%に、高血圧、糖尿病、脂質異常、心筋梗塞脳卒中認知症、がんなどの慢性疾患を認めます。米国大人の半分に代謝機能異常を認めることになります。これらの慢性疾患の主な原因はインスリン抵抗性です。インスリン抵抗性の原因は、高インスリン血症であり、炭水化物の過剰摂取です。つまり、食事を低糖質食(低炭水化物食)に変えることで、多くの疾患を回避することが可能なのです。
膵臓からインスリンがだけでなく、グルカゴンというホルモンが分泌されます。インスリンは摂食とエネルギー貯蔵という同化反応(anabolism)に、グルカゴンは断食とエネルギー燃焼という異化反応(catabolism)に働きます。
インスリン・グルカゴン(IG)比が低いと、カロリー制限をしなくても断食と同じような効果が得られます。つまり、インスリン感受性が亢進し、オートファジーが亢進し、脂肪分解が進み、褐色脂肪細胞が増加します。低糖質食では断食と同様に異化が亢進するので、活力がみなぎり、気分良く生活ができます。低糖質食で蛋白質を摂取してもIG比は変わりません。低糖質食では断食と同様に、糖新生の必要が高いので、蛋白質を大量に摂取してもケトーシスは維持できます。
低IG比を維持するために、1.糖質を制限する(1日50g以下)、2.タンパク質を優先的に摂取する(体重1kgあたり1-2g)、3.足りないエネルギーを脂肪で満たす(動物脂肪、ココナッツ、オリーブオイル、アボガド)、の3ステップが必要です。詳細はフェイスブック・ノートの「Fat Chance(砂糖に隠された真実) ロバート・ラスティグ」を参照してください。

エビデンスに基づく医療って言うけど・・

 エビデンスに基づく医療(EBM)とは、臨床論文を根拠に治療を選択する医療を言います。大学病院を含めた全ての病院で診療の礎とする方針です。
臨床試験が大規模になるほど、巨額な予算がかかるため、ほとんどの場合、製薬会社がスポンサーとなります。研究者には利益相反が必ず生じるので、商品(薬剤)を否定する論文が発表されることはありません。つまり、企業がスポンサーである臨床試験に真実はあり得ないのです。
しかし、残念なことには、大学も学会も、公明正大なはずの医学雑誌まで、スポンサーなしには成立しない世の中なのです。NEJM誌の副編集長を20年務めたマルシア・エンジェルは、2008年のJAMA誌で「医者はもはや、正当な信頼できる情報を医学論文に頼ることができない」と嘆いています。
日常臨床で最も問題なのは、診療ガイドラインがこのような論文に基づき改定を繰り返していることです。ほとんどの医師は診療ガイドラインを絶対と信じ、自分で考えようとはしません。僕も開業医になるまでの約20年間、アメリカ心臓協会(AHA)を盲信していました。現在は、スポンサーの関与、論文執筆者の研究歴とCOIを確認してから、論文を吟味する様になりました。
砂糖まみれのシリアルが、心臓に良いはずありません。

コレステロールは悪くない、だからスタチンは必要ない

 コレステロールはそもそも悪者ではありません。なので、スタチンで治療するメリットはほとんどありません。スタチンが有効なのは過去に心筋梗塞の既往のある50才以下の男性だけで、全ての老人と女性には無効です。二次予防のために、5年間スタチンを飲んで、死亡のNNTは83(83人飲んで1人だけ死亡を免れる)、心筋梗塞のNNTは39です。しかも、糖尿病のNNHは50(50人飲んだら1人は糖尿病になる)、筋肉障害のNNHは10です。一次予防になると心筋梗塞のNNTは217ですが、死亡の改善は得られません。スタチンの効果はコレステロール低下によるものではなく、抗炎症効果によると言われています。クルクミンやEPA/DHAで十分に代用可能ですし、副作用の心配も全くありません。スタチンは強力にLDLコレステロールを低下させますが、本当の悪玉であるsmall dense LDLを減らしません。糖質制限により、中性脂肪が低下し、HDLは上昇し、small dense LDLが低下し、一石三鳥の効果が得られます。詳細はフェイスブック・ノート「コレステロール仮説は本当に正しいか?」をご覧ください。

高血圧はメタボの最初のサイン

 血圧が高くて初診される方のほとんどがメタボリック症候群(メタボ)です。だから、血圧をさげるにはメタボの原因であるインスリン抵抗性を改善しなければなりません。最近の降圧薬は強力なので血圧コントロールは可能ですが、メタボを改善しない限り薬は増える一方です。インスリン抵抗性の主な原因は糖質の過剰摂取なわけですから、高血圧の治療に糖質制限は絶対に必要です。酒と砂糖(果糖)も、脂肪肝を引き起しインスリン抵抗性を増悪させます。糖質制限による塩分の排泄増加による浮腫みの改善も血圧低下に貢献します。塩分制限よりも糖質制限の方がはるかに重要です。肥満じゃないから、メタボじゃないとは言えません。実際、肥ってない人の40%にインスリン抵抗性を認めます。本態性高血圧の大半はメタボと言っても過言じゃありません。ただ、ごく稀ですが、二次性高血圧の方もいるので、血液検査による鑑別診断は必要です。詳細はフェイスブック・ノートの「Fat Chance(砂糖に隠された真実) ロバート・ラスティグ」を参照してください。