GABA(γアミノ酪酸)を増やそう!

GABA(γアミノ酪酸)は、脳、脊髄から放出される抑制性神経伝達物質です。GABA受容体に結合して、神経細胞内に塩化物イオン(Cl-)を流入させて、神経活動を抑制(過分極)します。鎮静、抗けいれん、抗不安、抗ストレス効果があり、自閉症、うつ、不安、不眠症、反すう思考、けいれん(てんかん)、薬物乱用、線維筋痛症、慢性疼痛などの治療に臨床応用されています。

GABAはアミノ酸であり、化学構造がそっくりなグリシン、βアラニン、タウリン、テアニンなどのアミノ酸はGABA効果を促進します。また、アルコール、ベンゾジアゼピン睡眠薬)、バルビツール酸(麻酔薬)、プレガバリン(鎮痛薬)、ガバペンチン(抗てんかん薬)などもGABA効果を促進します。さらに、プロゲステロン、プレグネノロン、アロプレグナノロン、アンドロステロン、5αDHP、DHTなどのステロイドもGABA効果を促進します。他にも、ドーパミン、ビタミンB6、ナイアシナミド、アスピリン甲状腺ホルモン(T3)、飽和脂肪酸SFA)、笑気(N2O)もGABA効果を促進します。

一方、グルタミン酸、コリン、セロトニンコルチゾールエストロゲン不飽和脂肪酸(PUFA)はGABA効果を抑制します。

グリシンはGABA効果の促進に加え、ミトコンドリア機能を改善し、酸化ストレスを軽減し、インスリン感受性を改善し、胃腸の健康を促進し、エンドトキシンとTLR4受容体に拮抗します。ゼラチンはコラーゲンを加熱変性したもので、成分の30%はグリシンから成ります。ゼラチンをスープに溶かして摂取することで、容易にGABA効果を促進することが可能です。

 

当院で糖尿病治療を希望される患者様へ

糖尿病はインスリンが十分に働かないことにより慢性的に血糖が高くなる病気です。糖質制限は、3大栄養素のうち唯一血糖を上げる炭水化物(糖質)を制限することで、薬なしでも血糖コントロールが可能とする食事療法です。確かに炭水化物を摂取しなければ血糖は下がりますが、果たして糖尿病は治ったと言えるのでしょうか?

風邪をひいて解熱剤を飲むと熱は下がりますが、ウイルス感染症が治ったわけではありません。同様に、糖尿病になり糖質制限で血糖が下がっても、インスリン抵抗性が改善するわけではありません。血糖は熱と同様に徴候であって原因ではないからです。これは、介入試験において、糖尿病専門医による厳格な血糖コントロールにより却って死亡率が増加した理由と思われます。糖尿病を治療するには、インスリン抵抗性を改善すること、正確には代謝の柔軟性(ミトコンドリア代謝機能)を回復する必要があるのです。

インスリン抵抗性の主な原因は血中遊離脂肪酸(FFA)の増加によるものであり、特に多価不飽和脂肪酸(PUFA)が原因となります。PUFAの主体となる植物オイル(シードオイル)を回避し、安全な飽和脂肪酸SFA:バター、ココナッツオイルなど)、一価不飽和脂肪酸(MUFA:オリーブオイルなど)を利用することがとても重要となります。しかし、脂肪組織に貯蔵された脂肪の大半がPUFAであるため、脂肪分解(リポライシス)によるFFAの上昇を抑制することが喫緊の課題となります。

糖質制限により血糖の上昇を防いでも、血糖降下薬により細胞内に無理やり糖を押し込んで血糖を下げても、ミトコンドリアにおけるブドウ糖の酸化利用が改善しない限り、糖尿病が治ったことにはなりません。それを制限しているのは、ミトコンドリアのランドル回路(糖-脂肪酸回路)であり、ミトコンドリアにおける脂肪酸酸化の増加が直接の原因です。アスピリン、ナイアシナミド、ビタミンEはリポライシスと脂肪酸酸化を抑制し、また、ビタミンB1、B2、B6、ビオチン、ナイアシナミドはブドウ糖酸化を促進します。

代謝の柔軟性は基礎代謝量と密接に関連します。糖質制限食や絶食は基本的に基礎代謝量を減らしますし、また、負荷の強い有酸素運動による強制的代謝基礎代謝量を減らします。これらはストレスとなり、結果的に副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の分泌を増やし、主に筋肉組織の分解による糖新生を促進し、拮抗的にインスリンの分泌も増加する悪循環を生み出します。つまり、カロリー制限と運動を奨励する糖尿病専門医の指導は、短期的に血糖や体重が低下することがあっても、長期的にはインスリン抵抗性を悪化させることになり、中止時のリバウンドを引き起こします。体重とインスリン抵抗性は必ずしも相関しません。基礎代謝量はミトコンドリアの豊富な筋肉量に依存するので、年齢に関わらず、筋力トレーニングはとても重要です。

また、腸内細菌の増加はエンドトキシンを増加し、腸管セロトニンの分泌を促進します。どちらも代謝を低下させるだけでなく、炎症を引きおこし、インスリン抵抗性を高めることが分かっており、腸内細菌を可能な限り少なく保つことが重要となります。これは糖質制限や絶食で一時的に体調が改善する主な理由です。腸内細菌のえさとなる食物繊維やレジスタントスターチの過剰摂取や、プロバイオティクスへの妄信には十分に注意する必要があります。

脳は1日に約130gのブドウ糖を必要とするので、糖尿病患者でも最低100-150gの炭水化物は必要です。3大栄養素のエネルギー比率の理想は、炭水化物60-65%、タンパク質15-20%、脂肪15-20%くらいの高炭水化物低脂肪食です。FFA制限の下、主に空腹時血糖を指標に、炭水化物を少しずつ慎重に増やして行きましょう。糖尿病が食事による病気である以上、医者任せ、薬任せで糖尿病を克服することはできません。糖質カウントの知識を身に着け、食事内容を試行錯誤する自主性が最も重要です。

最後に、サプリメントによるビタミン、ミネラル、アミノ酸などの摂取は、体に足りない栄養成分の補充であり、薬物治療とは全く異なり、糖尿病治療においてとても重要と考えています。薬なしで糖尿病を治療したい方はサプリメントも拒否する傾向が強いですが、食事や生活療法のみで糖尿病を克服できる人は極めて少数です。サプリメントを最初から否定する方は、当院での治療に向かないことを予め申し上げます。

 

 

 

2023年、年末のご挨拶

今年の正月に、たまたま目にしたMercola医師とGeorgi Dinkov氏との対談記事を読んで、代謝の基礎知識を根底から覆されてしまいました。マジか?と、心臓がバクバクして、汗が止まらなくなり、姿をくらましたい気持ちになったことを、昨日の事の様に覚えています。記事の内容は、肥満・糖尿病の主な原因は遊離脂肪酸、特に多価不飽和脂肪酸(PUFA)であり、糖質制限食、絶食、運動療法は却ってストレスとなり、代謝を悪化させる可能性があるとするものでした。

これまでとは真逆な概念である「生体エネルギー学」の真偽を検証するために、Ray Peat フォーラムにおけるGeorgi Dinkov氏の全ての記事に目を通したのですが、学ぶ度に気づきを得る展開となり、最後は、その卓越した論理性にすっかり魅了されていたのでした。簡単に言うと、「基礎代謝量を増やすものは正しく、減らすものは誤りである」とする考えです。結果として、4月には、9年間臨床応用してきた糖質制限食による糖尿病治療を改めることをホームページで宣言し、10月には、生体エネルギー学の臨床応用編を閲覧可能にしました。

振り返ると激動の1年でしたが、とても充実した1年となりました。来る日も来る日も、会社に籠って、ひたすら勉強し続けたわけですが、その原動力はひとえに科学的探究心でした。「過ちては則ち改むるに憚ること勿れ」この方針転換を可能にしたのは、いつでも最先端の情報収集ができるインターネットのおかげ様です。

久しぶりに食べる白米はとても美味しくて、あっという間に6kgも肥ってしまいましたが、血液データは全て改善しておりました。一番の変化は睡眠の質が劇的に改善したことでした。イライラや頭痛も減り、集中力が増し、疲れにくくなりました。

Peatyな食事で初期に肥るのは、長年に渡る糖質制限によるインスリン抵抗性のためです。インスリン抵抗性、正確には、代謝の柔軟性を改善するためには、脂肪組織からの脂肪分解を減らし、ミトコンドリアにおける脂肪酸酸化を減らして、ブドウ糖酸化を増やす必要があります。脂肪分解を減らすためには、PUFAの摂取を止めるだけでは十分ではなく、アスピリン、ナイアシナミド、ビタミンEの補充が必要となるかもしれません。また、ブドウ糖酸化を増やして乳酸生成を減らすためにも、ビタミンB1、B2、B6、ナイアシナミド、ビオチン(B7)の補充が必要となるかもしれません。

興味深いことに、脂肪酸酸化の増加、ブドウ糖酸化の減少、乳酸生成の増加は、肥満・糖尿病だけでなく、心血管疾患、自己免疫疾患、神経変性疾患、がんおよび老化に共通する代謝異常であることです。生体エネルギー学が、肥満・糖尿病のみならず、多くの慢性疾患の予防と治療に応用される時代が、近い将来必ず訪れると確信しております。

今年も受診して頂いた皆様、誠にありがとうございました。来年もご愛顧の程よろしくお願いいたします。

2023年12月 むらもと循環器内科 院長 村元信之介

 

スタチンは心血管疾患の原因となる

HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)は動脈硬化症に対する画期的な薬として普及し、世界中で処方され、その効能を疑問視する人は極めて少ない。スタチンには、処方の多い順に、クレストール(ロスバスタチン)、リピトール(アトロバスタチン)、リバロ(ピタバスタチン)などがある。

しかし、スタチンはメバロン酸合成を阻害することで、コレステロールだけでなく、CoQ10とビタミンK(VK)の合成も阻害する。電子伝達系の構成成分の一つであるCoQ10の欠乏は、ミトコンドリアにおける酸化代謝を低下させ、ATP産生量を減らす。VKの欠乏は軟部組織の石灰化を引き起こす。CoQ10とVK欠乏だけでなく、薬物によるCoQ10阻害(ロテオン)、VK阻害(ワーファリン)でも同様な結果を得ている。

CoQ10とVK欠乏による陰性効果はスタチンでも確認されており、CoQ10またはVKの補充によるスタチンの副作用の軽減が示されている。2022年の研究では、スタチンによる炎症の拡大が血管の石灰化と心血管疾患の主な要因であるとする知見が新たに示された。

スタチンは動脈硬化症、心血管疾患、心不全の原因となる。多くの医師がこの事実を知らずに処方しており、その処方に合理性はない。

 

参考論文

https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1586/17512433.2015.1011125

  • 低ATPによる心筋収縮力の低下は心不全を予見する

https://www.cell.com/biophysj/fulltext/S0006-3495(22)00602-6

  • スタチンの有害作用はCoQ10サプリとスタチン中止で治療できる

https://iubmb.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/biof.5520250116

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21603349/

  • 心機能を支える栄養としてVK2は重要である

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32549853/

  • スタチンと血管石灰化とVKの関係

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/kjm2.12373

  • スタチンによるマクロファージのRac1調節障害は粥状動脈プラークの石灰化を引き起こす

https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/ATVBAHA.119.313832#:~:text=Statins%20are%20capable%20of%20increasing,%E2%80%93IL%2D1%CE%B2%20signaling%20axis.

 

ゼラチン/グリシンは健康に欠かせない

コラーゲンは体のタンパク質のおよそ30%を占めます。コラーゲンは、皮膚、骨、腱、靭帯、軟骨、血管などの細胞外基質の主成分で、組織構造の骨組みとなり、強度を維持しながら伸縮を可能にしますが、加齢に伴い低下します。

コラーゲンを加熱変性したものがゼラチンです。コラーゲンは水に溶けませんが、ゼラチンは水溶性で、温めると溶け、冷すと固まるゾル化・ゲル化が可能になります。コラーゲンとゼラチンのアミノ酸組成は同じですが、消化吸収はグリシンが勝ります。

ゼラチンのおよそ30%を占めるアミノ酸グリシンです。グリシンは加齢に伴うミトコンドリア機能障害を改善することで私たちの老化を緩和します。また、グリシンは強力な内因性抗酸化物質グルタチオンの構成成分でもあり、酸化ストレスによる細胞傷害を予防します。グリシン代謝を促進して炎症を抑制するので、多くの変性疾患や炎症性疾患を改善します。

赤肉に豊富なメチオニンヒスチジントリプトファンシステインは、逆に、代謝を抑制して炎症を促進するので、これらのアミノ酸の過剰摂取は私たちの寿命を短縮します。また、トリプトファンセロトニンの前駆物質であり、セロトニン代謝を抑制して炎症を促進する上、ストレスホルモンであるコルチゾール生成を刺激します。また、ヒスチジンは炎症性メディエーターであるヒスタミンの前駆物質です。グリシンはこれらのアミノ酸に拮抗して、細胞傷害を予防/治療することができます。アラニンやプロリンにもグリシンと同様な効果があり、ゼラチンの摂取がより有効と思われます。

また、ゼラチン/グリシンは脂肪組織の脂肪分解を抑制することでインスリン感受性を改善し、高血糖、高中性脂肪を予防します。持続的な脂肪分解やインスリン抵抗性は全ての慢性疾患に関連するので、ゼラチン/グリシンの摂取はとても合理的と言えます。

他に、グリシンは抑制系神経伝達物質として働き、脳神経変性疾患を予防治療します。

また、グリシンは5α還元酵素を活性化し、アロプレグナノロンとデヒドロテストステロン(DHT)を増やし、コルチゾールエストロゲンの不活化を促進します。アロプレグナノロンは肝臓の胆汁酸受容体(TGR5)を活性化し、甲状腺ホルモンT4→T3の変換を促進し、代謝を増加します。

また、グリシンはエンドトキシンとTLR4受容体のアンタゴニストであり、腸内細菌に関連する様々な疾患を予防/治療します。また、グリシンはウイルスのカプシド形成を予防し、普遍的な抗ウイルス効果があります。

さらに、グリシンは胃腸の健康を促進します。代謝を促進するアスピリンの吸収を増やし、アスピリンによる胃腸傷害を完全に取り除いでくれます。

私たちは、先祖の様に、結合組織を含めた動物の全ての組織を食べる食事をとらないため、多くの人でコラーゲンが毎日10g程度不足しております。コーヒーやスープに3-5gのゼラチンを溶かして1日に2、3回摂取することを強くお勧めします。

コラーゲン/ゼラチン/グリシン欠乏関連疾患

不眠症、せん妄、統合失調症てんかん脳卒中、肥満、脂肪性肝疾患、アルコール性肝障害、脂質異常症、糖尿病、糖尿病性神経症、心血管疾患、逆流性食道炎、出血性潰瘍、炎症性腸疾患、骨関節炎、骨粗鬆症、がん、老化など。

 

生体エネルギー学の臨床(17) 全ての腸内細菌には病原性がある

病原性に多少の差異があるだけで、腸内細菌に善玉も悪玉もない。どんな細菌も増殖すれば害をなすので、可能な限り少ないのが望ましい。

腸内細菌は水溶性線維を発酵し、エネルギーが豊富な酪酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)を産生する。SCFAは肝臓に到達すると脂肪に変換されて蓄積し、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)となり、メタボリック症候群の原因となる。マウスの腸を殺菌すると、腸管細胞は利用するエネルギーをSCFAから糖に変え、インスリン感受性が改善する。

腸内細菌は腸管バリアの機能低下により、肝臓やリンパ節に移動し、持続的に住み着き、低グレードの感染症を引き起こし、肝疾患や自己免疫疾患の原因となる。マウスで、一般的な乳酸菌によるループス(SLE)の発症が確認されている。

私たちが産生する乳酸は主にL型である。しかし、腸内細菌の産生する乳酸はD型で毒性があり、その蓄積は小腸内細菌増殖症(SIBO)、ブレインフォグ、疲労、消化不良、鼓腸の原因となる。プロバイオティクスは腸管運動の低下している人には特に危険であり、鉄剤、オピオイドPPI、向精神病薬、老化などで腸管運動低下している場合は注意を要する。プロバイオティクスはCディフィシル菌や連鎖球菌などの病原菌には有益であろうが、常在菌には有益とは限らない。

エンドトキシンはグラム陰性菌細胞壁を構成するリポ多糖で、腸内細菌と共に増加する。エンドトキシンは腸上皮細胞のATPレベルを低下させ、腸管バリア機能を低下させる。エンドトキシンは腸管だけでなく全身のミトコンドリアにおける酸化的リン酸化反応を傷害する。つまり、腸を癒し、エンドトキシンを減らすことは、代謝の促進を意味する。

未消化物が大腸に運ばれる度にエンドトキシンは産生され、時間をかけて腸管バリアを傷害し、リーキーガットを引き起こす。リーキーガットが起きると、多くのエンドトキシンが門脈に侵入し、肝臓に排泄される。エンドトキシン自体が強い炎症性分子であり、全ての肝疾患(NAFLD、NASH、肝硬変、肝がん)の原因となり、そのレベルは肝疾患の重症度と相関する。エンドトキシンの多くの効果はTLR4受容体の活性化により生じ、下流のカスケードであるNO、セロトニンヒスタミン、IL-1/6、NF-kBを活性化し炎症反応を拡大する。

エンドトキシンや細菌が特別な組織で蓄積し、持続的な炎症反応により組織を破壊すると、免疫系が作動して細胞デブリスに対する特異的抗体を産生し、自己免疫疾患と診断される。急性期治療にはコルチゾールが処方され、その後ヒュミラなどの免疫抑制剤が処方される。コルチゾールは組織を破壊して免疫反応を増大するため、さらにコルチゾールを増量する悪循環に至る。

食事の10%を占めるシードオイルの多価不飽和脂肪酸(PUFA)は腸管バリアを傷害し、エンドトキシンの吸収を増やす。一方、飽和脂肪酸SFA)はリーキーガット、腸管ディスビオシスを改善する。

エンドトキシンは内皮機能障害、微小血栓、硬化症の原因となり粥状動脈硬化症に関与する。また、患者の粥腫にバクテロイデーテス細菌属の脂肪(エンドトキシン)を認めた。コレステロールではなくエンドトキシンが心血管疾患の原因の可能性がある。

腸管セロトニンの産生は、腸内細菌叢に完全に依存する。腸内細菌によりTLR2受容体が活性化されるとセロトニントランスポーター(5-HTT)が抑制され、腸管セロトニンが増加する。セロトニンの増加は腸間膜透過性亢進し、エンドトキシンの血管内への侵入を増やす。

また、セロトニン代謝のマスターレギュレーターである。マウスの腸管を殺菌するか、セロトニン合成抑制薬(TPHインヒビター)を使用すると、代謝、体重、健康が改善する。つまり、腸内細菌が少ないほど、セロトニンは減り、代謝は高くなり、より健康になる。SSRIも5-HTTを抑制し、セロトニンを増加させる。高PUFAダイエットもセロトニンを増やす。

 

腸内細菌に起因する疾患:うつ、自閉症統合失調症神経変性疾患パーキンソン病アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症など)、外傷性脳損傷、肝疾患、肥満、糖尿病、代謝症候群、自己免疫疾患(慢性関節リウマチ、ループス、強皮症、1型糖尿病など)、骨関節炎(変形性関節症)、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎クローン病過敏性腸症候群)、心血管疾患、がん、感染症(AIDS、COVID-19など)、性腺機能障害など。

 

避けるべき食材:水溶性線維、レジスタントスターチ、イヌリン、ペクチン、フルクトオリゴ糖、グアガムなど。

除菌:抗菌薬、抗真菌剤、活性炭、不溶性繊維(ニンジンサラダ)など。

TLR4受容体アンタゴニスト:ナルトレキソン、ベナドリル、シプロヘプタジン、ミアンセリン、エモジン、ナイアシナミド、VA、VB2、VD、プロゲステロン、オレンジジュースなど。

セロトニンアンタゴニスト:シプロヘプタジン、ベナドリル、オンダンセトロンなど。

腸管バリアの改善:ゼラチン/グリシン、VE(主に抗エストロゲン効果)、Mg、ナイアシナミド、VB群、SFAなど。

 

注)参考文献を確認したい方は、Ray Peat Forum(https://raypeatforum.com/community/)でキーワード検索してください。(例えば、Haidut, microbiome)HaidutはGeorgi Dinkovのペンネームです。

オレンジジュースを飲もう!

炭水化物をご飯やパンなどのでんぷんではなく、果物やオレンジジュースなどの糖類で摂ることをお勧めします。なぜなら、糖類は消化吸収が良く、ビタミン・ミネラルが豊富で、腸内細菌を増やさず、反栄養素を認めないからです。さらに、オレンジには健康増進に働くナリンゲニンが豊富なのです。

オレンジジュース1Lの総カロリー量は450kcalで、炭水化物は110gで、タンパク質は少なく、脂肪はほぼゼロです。炭水化物は全てブドウ糖、果糖、ショ糖(1:1:2)の糖類からなり、食物繊維はゼロです。また、ビタミンA、B群、C、EやK、Mg、Ca、Fe、I などのミネラルが豊富です。

意外に思うかも知れませんが、オレンジジュースは白米や食パンより血糖を上昇させません。果糖は血糖を上げないので、ブドウ糖と果糖が結合したショ糖(砂糖)のグリセミック・インデックス(GI)値は65と低目で、果糖の豊富なオレンジジュースのGI値は52とさらに低くなります。一方、ブドウ糖の塊である白米と食パンのGI値はそれぞれ85と90と高目です。

また、白砂糖と異なり、完熟果物は果糖に加えてビタミンやミネラルが豊富なので、糖代謝を悪化させません。はちみつやメープルシロップなどの自然の糖類にも同じことが言えます。一方、異性化糖(液糖)(HFCS)やアスパルテームスクラロースなどの人工甘味料は肥満・糖尿病を悪化させるので注意が必要です。

食物繊維がゼロであることは必ずしも腸活に不利とはなりません。実は、腸内細菌が増えるほどその死骸も増えるため、グラム陰性菌細胞壁の一部であるリポ多糖類(エンドトキシン)も増加します。食物繊維の過剰摂取によるエンドトキシンの増加は、肥満、糖尿病、自己免疫疾患、神経変性疾患、心血管疾患、がんなどの原因となることが分かっています。また、ご飯やパンに含まれる難消化性でんぷん(レジスタントスターチ)にも同じことが言えます。食物繊維とでんぷんを含まないオレンジジュースには、その心配がありません。さらに、オレンジジュースにはTLR4受容体とTLR2受容体の発現を減らし、腸内細菌やエンドトキシンによる免疫反応を抑制する効果があります。

植物は害虫などからの身を守るために有害な化学物質を合成します。豆類ほど多くはないですが、米、小麦にも、フィチン酸、レクチンなどの反栄養素が含まれ、健康への悪影響を及ぼしますが、オレンジジュースには認めません。

最後に、柑橘系フラボノイドであるナリンゲニンは、酸化ストレスと炎症を抑制し、糖尿病、心血管疾患、がんを予防することが分かっています。また、ナリンゲニンはウイルス複製を強力に抑制し、COVID-19を含むウイルス感染症に有効です。

果物やオレンジジュースで糖尿病が悪化することはありません。主食の代わりにオレンジジュースを飲んでみませんか?